親が施設に入居した直後、実家を見回してため息をついた——そんな経験はありませんか。
洋服タンス、食器棚、昔の書類の束、押し入れの奥に詰め込まれた段ボール。どこから手をつければいいのか、何を捨てて何を残すべきか、途方に暮れるのは当然です。
私は訪問リハビリの現場で10年以上働いてきました。利用者さんが施設に移るタイミングで「実家どうしよう」と悩むご家族をたくさん見てきました。その経験と、宅地建物取引士・大家としての視点を合わせて、片付けの手順を7ステップで整理しました。
「捨てる前にやること」を守るだけで、後悔を防げます。
1. 片付けを始める前にやること
実家の荷物に手をつける前に、必ず確認しておくことがあります。順番を間違えると、取り返しがつかない事態になります。
1-1. 貴重品・重要書類を最初に押さえる
最初に探すのは以下の4点です。
- 通帳・印鑑・キャッシュカード(未解約の口座がないか確認)
- 不動産の権利証または登記識別情報(土地・建物の名義確認に必要)
- 保険証書(生命保険・医療保険の解約・受取手続きに必要)
- 年金手帳・マイナンバーカード
これらを最初に確保しないまま片付けを進めると、書類ごと処分してしまうリスクがあります。特に権利証は再発行が難しく、不動産売却・相続時に必要になります。
訪問リハビリの現場では、ご家族から「親が施設に入ってから実家の片付けが手つかずで…」という話をよく聞きます。体力的にも精神的にも、一人で片付けようとすると限界がくる。だからこそ、業者の力を借りることや、家族で分担することを最初から考えておくことが大切だと感じています。
1-2. 家族で「形見分け」の方針を決める
片付けを始める前に、家族全員(または相続人全員)で話し合いの場を設けましょう。
決めておくべき項目は以下のとおりです。
- 形見分けするものの基準(「本人が大切にしていたもの」「使える状態のもの」など)
- 仏壇・神棚の扱い(引き取り手がいるか、専門業者に依頼するか)
- 残すものの保管場所と担当者
この合意なしに片付けを進めると、「あの着物を捨てたのか」と後になって揉める原因になります。
2. 片付けの7ステップ
方針が決まったら、以下の順番で進めます。
ステップ1:貴重品・重要書類を搬出
前述の4点に加え、アルバムや日記など「本人の意思確認が必要なもの」も施設に持参して確認しましょう。本人が判断できる間に、何を手元に置きたいかを聞いておくことが大切です。
ステップ2:家族での形見分け
仏壇・神棚、着物、食器、家具。取り合いにならないよう、1点ずつ引き取り希望者を確認します。写真に撮って共有グループに送ると、遠方の家族も参加しやすくなります。
ステップ3:電気・ガス・水道の整理
空き家になる期間が長くなるなら、ガスは閉栓が基本です。電気と水道はすぐに止めないほうがよい場合もあります。
- 電気:最低限の契約に切り替える(防犯灯・冬場の凍結防止に必要)
- ガス:閉栓手続きをする(使わないなら安全上の理由で早めに)
- 水道:冬場の凍結防止のため、定期通水を維持することも検討
ステップ4:大型家具・家電の処分
一般廃棄物として市区町村に回収依頼できるものと、家電リサイクル法の対象品(テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機)に分けて処理します。
家電リサイクル法の対象品は、購入した家電量販店や市区町村の指定業者を通じて処分します。不法投棄は厳禁です。
費用の目安(参考):
- 大型家具1点:3,000〜10,000円(市区町村の粗大ごみ)
- 冷蔵庫170L以下:リサイクル料金3,672円+収集運搬費
ステップ5:不用品回収業者の活用
大量の荷物がある場合は、不用品回収業者に依頼するのが現実的です。
選び方のポイント:
- 「一般廃棄物収集運搬業許可」を持つ業者かどうか確認する
- 見積もりは複数社から取る(相場は2Kで5〜15万円程度)
- 作業前に「追加費用が発生する条件」を必ず確認する
悪質業者のトラブルが多い分野です。チラシや突然の訪問営業で「格安」をうたう業者は避けましょう。
宅建士として不動産取引に関わる中で、「片付けトラブル」を相談されることがあります。よく聞くのが「作業前の見積もりと当日の請求額が大きく違った」というケースです。見積もり時に作業内容と人数・時間を書面で確認しておくことと、「一般廃棄物収集運搬業許可」の有無を事前に確認することが、トラブル回避の基本です。
ステップ6:清掃・ハウスクリーニング
荷物を出した後の清掃は、次にどう使うかによって変わります。
- 売却・賃貸を検討している場合:専門のハウスクリーニング業者に依頼する(3LDKで5〜10万円程度)
- しばらく空き家のまま置く場合:最低限の清掃と月1回程度の換気で対応
特に水回り(浴室・トイレ・キッチン)は放置するとカビが発生しやすくなります。月1回の換気と水回りの通水は維持管理の基本です。
ステップ7:実家の今後を決める
片付けが終わったら、不動産としての実家をどうするかを検討します。主な選択肢は次の3つです。
3. 片付け後の実家、3つの選択肢
選択肢①:売却する
親が施設に入居し、誰も住まない状態が確定した段階で売却を検討するのが合理的です。
空き家のまま放置すると、固定資産税・火災保険・管理費が毎年かかります。さらに「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇措置が外れ、税額が最大6倍になるケースもあります。
売却を検討するなら、まず複数の不動産会社に査定を依頼することが重要です。1社だけに任せると適正価格が見えません。
(→ 不動産一括査定について詳しくは「親の家の不動産一括査定3社徹底比較」をご覧ください)
選択肢②:賃貸に出す
「いつか戻るかもしれない」「売却にはまだ踏み切れない」という場合は、賃貸に出す方法があります。
ただし、親が施設にいる間に賃貸を始めると、「売りたいときに入居者がいて動けない」状況になることがあります。将来の方針を家族で決めてから判断することをすすめます。
選択肢③:しばらく保留にする
「親が元気だったとき使っていた家を、まだ売れない」というのは十分な理由です。感情的な判断を無理に押さえる必要はありません。
ただし「保留にするなら管理は必ずする」という前提が必要です。月1回の換気、水回りの確認、郵便物の回収、草刈りなど、最低限の管理を誰が担うかを家族で決めておきましょう。
認知症が進んでいる場合、本人に「売却の意思確認」ができないと、不動産の売買契約が法的に無効になるリスクがあります。施設入居後に売却・賃貸を検討するなら、早めに成年後見制度の利用を家族で話し合っておくことをすすめます。手続きには数ヶ月かかるため、「売りたいと思ってから動く」では間に合わないことがあります。
まとめ
親が施設に入った後の実家の片付けは、順番が大切です。
- 貴重品・重要書類を最初に確保する
- 家族で形見分けの方針を合意する
- 電気・ガス・水道を整理する
- 大型家具・家電はルールに従って処分する
- 不用品回収業者は「許可業者」から選ぶ
- 清掃・ハウスクリーニングで状態を整える
- 片付け後は「売却・賃貸・保留」のいずれかを決める
「とりあえず後で考えよう」と放置した空き家が、数年後に管理コストと固定資産税の重荷になるケースは珍しくありません。片付けが終わったタイミングで、不動産の今後を家族で話し合っておくことをおすすめします。
なお、相続・売却・賃貸にかかる法的・税務的な判断は、弁護士・税理士・不動産会社への専門家相談を必ずお願いします。
著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 11期目の大家。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。