売却

親の家を売るタイミング——相続前と相続後、どちらが有利か

「親がまだ元気なうちに家を売った方がいいのか、亡くなってから売る方がいいのか」

実家の売却を考えるとき、多くの方がこの問いに直面します。答えは「どちらが有利か」という単純な比較では出ません。税金・手続き・家族関係の3つの視点で整理することが重要です。

宅建士として、また地主系大家として不動産の現場に長く関わってきた経験から、それぞれのケースの実情をお伝えします。

この記事の結論

親の家を売るタイミングについて、結論から先にお伝えします。

  • 相続前売却のメリット:3,000万円特別控除が使いやすく、親が意思決定できるうちに動けます。施設入居後3年以内に売却することがポイントです。
  • 相続後売却のメリット:遺産分割後に動けるためきょうだい間のトラブルが起きにくく、相続税の取得費加算特例が使える場合もあります。
  • 認知症が進む前に動く:認知症が進むと成年後見が必要になり、売却まで1年以上かかるケースもあります。
  • 必ず税理士に相談してから決める:税金の最適解は家族の状況によって大きく変わります。不動産会社だけに相談すると「売りましょう」の方向にしか話が進みません。

以下で、各ポイントを詳しく解説します。


「相続前に売る」とはどういうことか

親が生きているうちに実家を売却するケースには、大きく2つのパターンがあります。

  • 親本人が売却を決断する(介護施設への入居費用を捻出するためなど)
  • 親から子へ贈与してから子が売る

最も多いのは「親が施設に入ることになり、空き家になった実家を売却する」パターンです。

相続前売却のメリット

① 3,000万円特別控除が使いやすい

売却益(譲渡所得)から3,000万円を控除できる「マイホーム特例」は、売主が実際に住んでいた(または住まなくなってから3年以内の)物件が対象です。

親が施設に入居した場合、住まなくなってから3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却すれば、この特例が使えます。施設入居後に時間が経ちすぎると、特例が使えなくなる点は要注意です。

② 親の意思で動けるうちに決められる

売却には契約への署名・押印が必要です。認知症が進行すると、法律行為ができなくなります。そうなると「成年後見制度」を利用して家庭裁判所の関与が必要になり、手続きが大幅に複雑化します。

元気なうちに動ける、というのは大きなメリットです。

相続前売却のデメリット

① 売却益に所得税・住民税がかかる

親が売主となって売却益が出た場合、その年の確定申告で所得税・住民税を納める必要があります。介護費用のために売ったつもりが、税金で想定外の出費が生じるケースがあります。

② 相続人全員の同意が不要なぶん、もめることも

親が自分の意志で売却を決めることは法的には問題ありません。ただし、「兄弟に相談もなく売った」となると、後の相続で感情的なしこりが残ることもあります。

「相続後に売る」とはどういうことか

親が亡くなったあと、相続した実家を売却するパターンです。

相続後売却のメリット

① 取得費が「相続時の評価額」ではなく「被相続人の取得費」を引き継ぐ

売却益(譲渡所得)を計算するときの「取得費」は、亡くなった親が最初にその家を買ったときの価格(購入価格)を引き継ぎます。

これが非常に重要なポイントです。

たとえば親が30年前に2,000万円で購入した家を相続し、4,000万円で売却した場合、取得費は相続時の評価額ではなく**2,000万円(購入時の価格)**が基準になります(建物は減価償却で減少)。

ただし、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、「相続税の取得費加算特例」が使えることがあります。相続税を払っていた場合は、その一部を取得費に上乗せできるため、売却益を圧縮できます。

② 相続人全員で話し合ってから動ける

遺産分割協議を経て名義変更後に売却するため、きょうだい間でのトラブルが起きにくいのも特徴です。

相続後売却のデメリット

① 空き家期間が長くなりやすい

相続後は遺産分割協議・相続登記・売却準備と手順が多く、売却まで時間がかかります。その間、固定資産税は発生し続け、管理の手間もかかります。

→ 空き家の固定資産税リスクについて

② 「空き家の3,000万円特別控除」は要件が厳しい

相続した空き家を売却する場合にも3,000万円特別控除を使える「空き家特例(措置法35条3項)」がありますが、昭和56年5月以前に建築された旧耐震基準の建物であること、売却前に一定の工事が必要など要件が限定されています

どちらが「正解」かは状況次第

観点相続前売却相続後売却
3,000万円控除◎ 使いやすい△ 空き家特例は要件あり
認知症リスク◎ 早めに動ける✕ 判断能力低下で手続き困難に
家族の合意△ 事前協議が重要◎ 遺産分割後に動ける
相続税との兼ね合い◎ 取得費加算特例が使える場合も
空き家管理◎ 早期解消△ 空き家期間が長くなりがち

一番大切なのは「早めに専門家に相談する」

売却タイミングの判断は、その家族の状況・税務・親の健康状態によって大きく変わります。

特に税金の話は、個別の事情によって最適解が変わるため、必ず税理士に相談してから動くことを強くおすすめします。不動産会社に相談すると「売りましょう」という方向に話が進みがちですが、税務面は税理士、法律面は司法書士・弁護士と専門家を使い分けることが重要です。

「売るかどうか迷っている」段階でも、相談だけなら無料の窓口(市区町村の法律相談など)を活用できます。

→ 不動産会社の選び方・査定の注意点

税務・法律・医療に関する個別の判断は、税理士・弁護士・医師などの専門家にご相談ください。


著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 11期目の大家。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。

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けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 11期目の大家。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。