「実家をどうするか」という話は、たいてい持ち家を前提に語られます。
でも、親が賃貸住宅で一人暮らしをしている家庭も少なくありません。私が管理に関わる物件にも、高齢の単身入居者の方がいらっしゃいます。
そういうご家庭で、あまり語られない問いがあります。
もし親が亡くなったら、あの部屋と契約はどうなるのか。
「持ち家じゃないから、相続の心配はいらない」——そう思っている方が多いのですが、実はそうではありません。
賃貸不動産経営管理士として、また実際に賃貸物件を持つ立場から、知っておいてほしいことを書きます。
この記事の結論
- 賃貸借契約は消えません。相続されます。亡くなった瞬間に自動で終わるわけではありません
- だから、解約手続きをするまで家賃は発生し続けます
- 部屋の荷物を勝手に処分することはできません。相続財産だからです
- 相続放棄をしても、それだけで終わりとは限りません
- 対策として、2021年に国が「生前に備える仕組み」を作りました。まだほとんど知られていません
- 親が元気なうちに確認しておくのは、契約書の場所・管理会社の連絡先・保証人か保証会社かの3つです
1. 契約は「消える」のではなく「引き継がれる」
いちばん誤解が多いのがここです。
借りていた人が亡くなっても、賃貸借契約は自動で終わりません。
法律上、借りる権利(賃借権)は相続人に引き継がれます。つまり、子どもが新しい借主になるということです。
死亡届を出しても、契約には何の影響もありません。役所と大家さんはつながっていないからです。
「親が亡くなったので、契約はもうありません」——これは通用しません。
契約を終わらせるには、相続人が解約の手続きをする必要があります。
2. 手続きをするまで、家賃は発生し続ける
契約が続いているということは、家賃も発生し続けるということです。
葬儀や役所の手続きに追われて、部屋のことが後回しになる。それはごく自然なことです。でも、その間も家賃は毎月発生します。
| 経過 | 家賃 |
|---|---|
| 亡くなった月 | 発生 |
| 翌月 | 発生 |
| 3か月後 | 発生 |
| 解約手続き完了 | ここで止まる |
家賃6万円の部屋なら、半年放置すると36万円です。
しかも、相続人が複数いる場合は話が進みにくくなります。 兄弟の誰かが「まだ荷物を見ていない」と言えば、そこで止まります。その間も家賃は積み上がります。
3. 荷物を勝手に処分することはできない
「親の荷物だから、子どもが片付ければいい」——そう思いますよね。
でも、部屋にある家財は「相続財産」です。
相続財産は、相続人全員のものです。兄弟がいるなら、あなた一人の判断で捨てることはできません。
そして大家さんも捨てられません。他人の財産を勝手に処分すれば、あとで損害賠償を請求されるおそれがあるからです。
この「誰も動かせない」状態が、部屋が何か月も空いたまま家賃だけ発生するいちばんの原因になります。
貸す側から見ても、これは深刻な問題です。 だからこそ、高齢の単身者の入居審査が慎重になる——という話は高齢者は本当に賃貸を借りられない?に書きました。
4. 相続放棄をしても、それだけで終わりとは限らない
「じゃあ相続放棄すればいい」と考える方もいます。
たしかに相続放棄をすれば、家賃を払う義務は引き継ぎません。ここは大きなメリットです。
ただし、注意点があります。
放棄した時点でその財産を実際に持っている(占有している)場合は、次の相続人などに引き渡すまで、きちんと保存しておく義務が残ります。
たとえば、親の部屋の鍵を預かって荷物を運び出していた——というような場合です。
この決まりは2023年4月に改正されて、以前より範囲がはっきりしました。昔ほど重い負担ではなくなりましたが、「放棄すれば何もしなくていい」とまでは言えません。
相続放棄そのものについては相続放棄のデメリットとやり方にまとめています。
⚠️ 連帯保証人になっているなら、放棄しても逃げられません
見落とされがちですが、これが一番怖いところです。
あなたが親の賃貸契約の連帯保証人になっている場合、相続放棄をしても保証人としての責任は残ります。
保証人の義務は「相続したもの」ではなく、あなた自身が契約したものだからです。
家賃も、原状回復費も、直接請求されます。まずは自分が保証人になっていないか、確認してください。
5. 特殊清掃が必要になったとき
つらい話ですが、触れておきます。
発見が遅れた場合、通常の清掃では原状回復ができないことがあります。専門業者による特殊清掃が必要になり、費用は数十万円から、状況によっては100万円を超えることもあります。
これに加えて、床材や壁の張り替えが必要になることもあります。
ここで効いてくるのが保険です。
- 親が家財保険(借家人賠償責任保険)に入っていれば、原状回復費の一部がまかなえる場合があります
- 大家側も孤独死保険に入っていることがあります
契約時にセットで入っているケースが多いので、まずは契約書と保険証券を探してください。
6. 2021年に、国が「生前に備える仕組み」を作りました
ここからが本題です。
こうした問題を減らすために、国土交通省が2021年に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」というものを公表しました。
名前は難しいのですが、やっていることはシンプルです。
親が元気なうちに、「もしものときに部屋を片付けて契約を終わらせる人」をあらかじめ決めておく。
この役割の人を受任者(じゅにんしゃ)といいます。
| 決めておくこと | 内容 |
|---|---|
| 誰が解約するか | 受任者が契約を終わらせられる |
| 誰が荷物を片付けるか | 受任者が処分できる |
| 何を残すか | 「これは捨てないで」と指定できる |
受任者には、子どもなどの相続人がなるのが基本です。管理会社や、高齢者の住まいを支援する団体がなることもあります。
60歳以上の単身の方を想定した仕組みで、親が契約するときや更新のときに、あわせて結ぶことができます。
この仕組みがあると、「誰も動かせない」状態を避けられます。 家賃が積み上がるのも、荷物が何か月も残るのも防げます。
まだほとんど知られていません。 管理会社に「うちでも使えますか」と聞いてみる価値は十分にあります。
7. 親が元気なうちに、確認しておく3つ
難しいことをする必要はありません。3つ聞いておくだけで、いざというとき全然違います。
① 賃貸借契約書はどこにあるか
これがないと何も始まりません。 大家さんが誰か、管理会社がどこか、家賃がいくらか——すべて契約書に書いてあります。
「どこにしまってある?」と聞いて、写真を撮らせてもらうだけで十分です。
② 管理会社の連絡先
大家さんに直接連絡するのか、管理会社を通すのか。窓口が分からないと、解約の連絡すらできません。
③ 保証人か、保証会社か
- 連帯保証人がいる場合 → 誰か。自分ではないか
- 保証会社を使っている場合 → どこの会社か
先ほど書いたとおり、自分が保証人なら、相続放棄をしても責任は残ります。ここは早めに知っておいたほうがいいです。
親と直接この話をするのは、正直、気が重いものです。「死んだあとの話」に聞こえてしまうからです。
私の家でも、切り出し方には苦労しました。うまくいった言い方はお盆に親と「家とお金」の話をどう切り出すかに書いています。
「契約書どこにある?」くらいの軽さで十分です。全部を一度に聞こうとしないほうが、うまくいきます。
まとめ
親が賃貸に住んでいる場合、覚えておくことはこれだけです。
- 契約は消えない。相続されるので、手続きをするまで続く
- 家賃は発生し続ける。放置すると数十万円になる
- 荷物は勝手に処分できない。相続財産だから
- 相続放棄しても終わりとは限らない。特に連帯保証人なら責任が残る
- 2021年の仕組みで、生前に備えられる
- 今できるのは、契約書・管理会社・保証人の3つを確認すること
「持ち家じゃないから相続は関係ない」——そうではありません。
むしろ賃貸のほうが、時間が経つほど費用が増えていくという性質があります。持ち家なら空き家のまま置いておけますが、賃貸はそうはいきません。
だからこそ、元気なうちの3つの確認が効きます。
実家の話全体の進め方は「親の家、どうする?」完全ガイドに、賃貸と持ち家をどう考えるかは老後は賃貸と持ち家、どっちが安心?にまとめています。あわせてどうぞ。
なお、この記事は賃貸不動産経営管理士・宅地建物取引士としての知識と、賃貸物件の管理に関わる経験をもとにした一般的な情報提供です。契約内容や相続の状況によって取り扱いは変わります。実際の手続きにあたっては、管理会社や弁護士・司法書士などの専門家にご確認ください。
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