「母が自分で銀行に行けなくなったので、通帳を預かって、介護の支払いをしているんです」
介護が始まると、子どもが親のお金を管理するようになることがあります。家族だから、親のためだから、と始めることがほとんどです。
でも、払い方や記録の残し方によっては、あとできょうだいから疑われたり、相続税の調査で説明に困ったりすることがあります。
この記事では、訪問リハビリの理学療法士(PT)として介護の現場で見てきたことと、宅建士として相続を勉強してきたことから、親の通帳を預かったときの払い方と、記録の残し方をまとめます。
この記事の結論
- 介護が始まると、子どもが親のお金を管理するようになることがある
- 落とし穴は2つ。親のお金を子の口座に移す・混ぜることと、記録を残さないこと
- 相続税の調査では、預金のお金の流れや、誰がお金を管理していたかを聞かれることがある
- 守りたいのは、親のお金は親の口座から払う、記録と領収書を残す、きょうだいと共有するの3つ
- できれば、親が元気なうちに、お金の管理のしかたを家族で話し合っておく
現場から——親のお金を、子どもが管理している家
訪問リハビリでいろいろな家にうかがうと、子どもが親のお金を管理している家を、ときどき見ます。親が銀行に行けなくなった、暗証番号が分からなくなった、といったきっかけで、子どもが通帳やカードを預かるようになります。
介護サービスの利用料を、親の口座から引き落としにしている家も見てきました。引き落としなら、通帳に「いつ、どこに、いくら払ったか」が自然に残ります。
困りやすいのは、引き落としにできない支払いです。おむつや日用品、通院のタクシー代、病院の窓口での支払いなど。ここをどう払うかで、あとの手間が大きく変わります。
落とし穴①|親のお金を、子の口座に移す・混ぜる
いちばん気をつけたいのは、親の口座から、子どもの口座にお金を移すことです。
「まとめて引き出して、自分の口座に入れておいたほうが払いやすい」と考える気持ちは分かります。でも、親のお金と自分のお金が混ざると、どれが親のお金で、どれが自分のお金かが分からなくなります。
- 親のお金を、子どもの名前の口座に入れておくと、実際には親のお金なのに、子の名前になっている預金(名義預金)と見られることがある
- 名義預金は、親が亡くなったとき、親の財産として相続税の計算に入ることがある
- 逆に、親から子にお金が移ったと見られると、贈与と扱われることもある
親のお金は、親の口座から払う。 これがいちばん分かりやすく、あとで説明もしやすい方法です。
落とし穴②|記録を残さない
もう1つの落とし穴は、何に使ったかの記録を残さないことです。
親の口座からお金を引き出して現金で払っていると、通帳には「引き出した」ことしか残りません。何に使ったのかは、記録がなければ誰にも分かりません。
そのままにしておくと、たとえばこんな場面が出てきます。
- 親が亡くなったあと、きょうだいから「このお金はどこに行ったの?」と聞かれて、説明できない
- 介護をがんばってきたのに、使い込んだのではないかと疑われる
介護を担ってきた人が、最後にいちばんつらい思いをする。そんな場面を防ぐためにも、記録は大切です。
相続税の調査では、何を聞かれるのか
相続税がかかる家では、申告のあとに税務署の調査が入ることがあります。税理士事務所などの解説によると、調査では次のようなことを聞かれることがあるといわれています。
| 聞かれること | 例 |
|---|---|
| 預金のお金の流れ | 亡くなる前の何年かで、大きなお金の出し入れがないか |
| 誰がお金を管理していたか | 通帳やカードを、本人と家族のどちらが持っていたか |
| 医療費や生活費の出どころ | 介護費や入院費を、どの口座から払っていたか |
| 家族の名前の預金 | 亡くなった人のお金が、家族の名前の口座に移っていないか |
介護のために親のお金を管理していた家族は、まさにここを聞かれる立場です。親の口座から払い、記録を残しておけば、聞かれても落ち着いて説明できます。
相続税がかかるかどうかの目安は「相続税の申告は必要?」にまとめています。
でも、記録は今日から残せる
ここまで読むと不安になるかもしれませんが、希望もあります。記録は、特別な準備がなくても、今日から残せます。
- 介護サービスの利用料は、親の口座から引き落としにする
- 現金で払うものは、領収書やレシートをとっておく。封筒やクリアファイルに、月ごとにまとめるだけで十分
- 親の口座から引き出したときは、ノートやスマホのメモに、日付・金額・何に使ったかを1行書く
- 子どもが立て替えたときは、レシートと一緒に「立て替え」と書いておき、親の口座から精算した日も書く
介護の記録の残し方は「介護した分は相続で報われる?」でもまとめています。お金の記録と介護の記録は、どちらもあとで家族を守る材料になります。
親が元気なうちに、できること
いちばんいいのは、親が自分で判断できるうちに、お金の管理のしかたを家族で決めておくことです。
- 銀行の代理人の手続き:親の口座を、家族が代わりに使えるようにする仕組みを用意している銀行もあります。使えるかどうかは、親の取引している銀行に確認してください
- 家族信託・任意後見:親が元気なうちに、財産の管理を任せる相手や方法を決めておく制度です。専門家に相談して選びます
親が認知症などで判断できなくなってからでは、選べる方法が少なくなります。生前の準備の順番は「生前にやること、何から?」にまとめています。
私が家族に伝えたいこと
親の通帳を預かることになった家族に、私が伝えたいことは4つです。
- 親のお金は、親の口座から払う:子の口座に移したり、自分のお金と混ぜたりしない
- 記録と領収書を残す:何に使ったかを、あとで説明できるようにしておく
- きょうだいと共有する:ひとりで抱えず、ときどき通帳や記録を見せる。それだけで、疑われる心配がぐっと減ります
- 親が元気なうちに準備する:お金の管理のしかたを、親と一緒に決めておく
お金の管理は、介護のなかでも見えにくい負担です。ひとりで抱えず、見える形にしておくことが、介護する人自身を守ることにつながります。
よくある質問
親の通帳を、子どもが管理してもいいのですか?
親が同意していれば、家族が代わりに管理すること自体は珍しくありません。ただし、預金はあくまで親のものです。親のために使い、何に使ったかを記録しておくことが大切です。
介護費を立て替えたら、親の口座から精算してもいいですか?
立て替えた分を親の口座から精算することは、あとで説明できるようにしておけば問題になりにくいです。レシートと、精算した日・金額を記録しておきましょう。
親のお金を、子どもの口座でまとめて管理してもいいですか?
おすすめしません。親のお金と自分のお金が混ざり、あとで区別がつかなくなります。子どもの名前の預金が、実際には親のお金(名義預金)と見られることもあります。
記録は、どのくらい残しておけばいいですか?
決まった形はありませんが、日付・金額・何に使ったかが分かれば十分です。領収書は月ごとにまとめておくと、あとで見返しやすくなります。
この記事のまとめ
- 落とし穴は、親のお金を子の口座に移す・混ぜることと、記録を残さないこと
- 相続税の調査では、お金の流れや誰が管理していたかを聞かれることがある
- 親のお金は親の口座から払う、記録と領収書を残す、きょうだいと共有する
- できれば親が元気なうちに、お金の管理のしかたを決めておく
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親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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