退院後も身体が戻らない——PTが見た帰宅後リハビリの現実 介護リフォーム

退院後も身体が戻らない——PTが見た帰宅後リハビリの現実

「退院できてよかった。あとは家でゆっくり回復すれば大丈夫」

そう思っていたのに、実際には思ったより身体が戻らない——。

訪問リハビリの現場で、こういったケースを何度も見てきました。入院中は毎日リハビリを受けていたのに、帰宅した途端に身体の回復が止まる、あるいは逆に悪化してしまう。

なぜそうなるのか、そして家族として何を準備しておけばよいのか。理学療法士として10年以上、自宅に伺ってきた経験からお伝えします。


「退院=回復完了」ではない

まず大前提として、退院は「治った」ではなく「病院での治療が一段落した」というタイミングです。

特に脳卒中・骨折・手術後などのリハビリは、病院での集中的なリハビリが終わっても、身体機能の回復はまだ途中であることが多いです。

病院でのリハビリはなぜ短くなっているのか

「昔はもっと長く入院できた」という話をよく聞きます。実際、2000年代以降の診療報酬改定により、入院期間は大幅に短縮されています

たとえば脳卒中のリハビリ入院(回復期リハビリテーション病棟)では、発症から最長180日というルールがありますが、実際には平均2〜3ヶ月で退院となるケースが多いです。

つまり、「まだリハビリが必要な状態でも退院になる」のが今の医療の現実です。

帰宅直後に何が起きるか

入院中は毎日、理学療法士・作業療法士によるリハビリを受けていた方が、帰宅した途端にリハビリがゼロになる——これが最大の落とし穴です。

身体機能の回復には「継続的な刺激」が必要です。帰宅後にリハビリを受けない期間が続くと、せっかく入院中に取り戻した機能が落ちてしまうこともあります。


PTが現場で見てきた「帰宅後の困りごと」

訪問リハビリで自宅に伺うと、入院中にはわからなかった問題が次々と出てきます。

① 家の段差・廊下が想定外に障害になる

病院のリハビリ室はバリアフリーで設計されています。ところが自宅には、玄関の上がり框(かまち)・廊下の段差・浴室の入り口など、さまざまな「引っかかり」があります。

入院中は平らなリハビリ室で歩けていた方が、自宅の段差でつまずいてしまう——このギャップが転倒リスクにつながります。

② トイレ・お風呂が一番きつい

「トイレに一人で行けるかどうか」は在宅生活の大きなポイントです。ところが多くの家庭で、トイレの手すりの位置が使いにくかったり、浴槽の出入りが想定以上に大変だったりします。

訪問リハビリで自宅に来て初めて「これは難しい」とわかるケースが非常に多いです。

③ 家族の介助の仕方がわからない

病院では看護師・リハビリスタッフが介助してくれていたため、家族は実際の介助方法をよく知らないまま帰宅になることがあります。

「どう支えればいいか」「転んだときどうするか」がわからないまま在宅生活が始まると、家族も本人も不安で疲弊してしまいます


退院前に家族がやっておくべき5つの準備

帰宅後のトラブルを減らすために、退院前に動いておくべきことがあります。

① 退院前カンファレンスに参加する

多くの病院では、退院前に「退院前カンファレンス(退院前調整会議)」が開かれます。医師・看護師・リハビリスタッフ・ソーシャルワーカーが集まり、帰宅後の生活について話し合う場です。

ここに家族も参加することが非常に重要です。「家でどんなことが難しそうか」「退院後にどんなサービスを使うか」を確認できる貴重な機会です。開催されるかどうかを病院に確認してみてください。

② 訪問リハビリの手配を退院前に済ませる

退院後にリハビリを継続したい場合、訪問リハビリの手続きには時間がかかります。ケアマネジャーへの相談→主治医への指示書依頼→事業所との調整、という流れが必要です。

退院してから動き始めると、実際に訪問リハビリが始まるまで1〜2ヶ月かかることもあります。退院が決まったらすぐに動き始めることが大切です。

③ 家の中を実際に確認してもらう

病院によっては、退院前に理学療法士や作業療法士が自宅を訪問して「家屋調査」を行ってくれる場合があります。「玄関の段差は何センチか」「廊下に手すりが必要か」などを専門家の目でチェックしてもらえます。

病院に「家屋調査をお願いできますか?」と相談してみてください。

④ 介護保険の申請を済ませておく

退院後に訪問リハビリや介護サービスを利用するためには、介護保険の「要介護認定」が必要です。認定には申請から1ヶ月程度かかります。

**まだ申請していない場合は、入院中に申請を済ませておくのがベストです。**病院のソーシャルワーカーに相談すると手続きを助けてもらえることが多いです。

⑤ 手すりの設置など住宅改修を済ませておく

退院前に、トイレ・浴室・廊下などへの手すり設置を済ませておくと、帰宅直後から安全に生活できます。

介護保険の「住宅改修費支給制度」を使えば、最大20万円まで9割(または8割)が補助されます。ただし、工事前に市区町村への事前申請が必要です。退院直前に慌てて動き始めると間に合わないことも多いので、入院中に動き出すことをおすすめします。

→ 介護保険の住宅改修費20万円の使い方


帰宅後のリハビリ、選択肢は何がある?

退院後もリハビリを継続する方法はいくつかあります。

サービス内容利用条件
訪問リハビリ自宅にPT・OT・STが来てリハビリを行う要介護認定または医療保険
デイケア(通所リハビリ)施設に通ってリハビリを受ける要介護認定
外来リハビリ病院・クリニックに通って受ける医師の指示書が必要
自主トレ指導PTから自主トレメニューをもらい自分で行う

自宅から出ることが難しい方には訪問リハビリ、ある程度外出できる方にはデイケアや外来リハビリが選択肢になります。

どの方法が合っているかは、主治医やケアマネジャーに相談しながら決めていくのがよいでしょう。


まとめ

退院は「回復の終わり」ではなく、「在宅でのリハビリのスタート」です。

  • 退院前カンファレンスに参加する
  • 訪問リハビリの手配を退院前に済ませる
  • 家屋調査をお願いする
  • 介護保険の申請を済ませておく
  • 手すりなどの住宅改修を事前に行う

この5つを入院中から動き始めるだけで、帰宅後の生活は大きく変わります。「退院が決まったら何から動けばいい?」と迷ったら、まず病院のソーシャルワーカーかケアマネジャーに相談することをおすすめします。

医療・介護・リハビリに関する個別の判断は、担当医・ケアマネジャー・リハビリスタッフなどの専門家にご相談ください。


著者プロフィール けいすけ / 理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 11期目の大家。医療と不動産、両方の現場から「親の家、どうする?」を考えます。

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けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 11期目の大家。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。