「ケアマネさんに何度も言っているのに、何も変わらないんです」
ご家族から、ときどきこう言われます。
前回の記事で「信頼できるケアマネさんの見分け方」を書きました。その最後に、「変えるより、まず伝え方を変えてみるほうがうまくいくことも多い」と書きました。
今日はその続きです。何をどう伝えると、ケアマネさんは動きやすいのか。
訪問リハビリの理学療法士として、100人以上のケアマネさんと一緒に仕事をしてきました。その中で見えてきた「通る伝え方」の話をします。
この記事の結論
- ケアマネさんが動けないのは、やる気がないからではなく根拠が足りないことが多い
- 要望ではなく「場面」を伝えてください。「手すりがほしい」ではなく「玄関で靴を履くときにふらついた」
- いつ・何回・どのくらいの3つを添えると、一気に動きやすくなります
- 月1回の訪問を待たないでください。変化した日に電話で構いません
- 言いにくいなら、毎週来ている人(リハビリ・看護・ヘルパー)に言えば伝わります
1. なぜ「困っています」では動かないのか
はっきり言うと、ケアマネさんは「困っています」だけでは動けません。
意地悪をしているわけではありません。書類に根拠を書く必要があるからです。
介護保険のサービスは、ケアマネさんの一存では決まりません。ケアプランを作り、必要なら理由書を書き、関係者が集まる会議(サービス担当者会議)にかけて、はじめて動きます。
そのどの書類にも、「なぜ必要か」を書く欄があります。
そこに「ご家族が不安とのこと」と書いても、通りません。でも——
「玄関の上がり框(20cm)で、靴を履く際にふらつき、壁に手をついた。週2回程度」
こう書けば通ります。
つまり、ご家族が伝えた情報が、そのまま書類の材料になっているのです。材料がなければ、書きようがありません。
住宅改修の理由書を誰が書くのかは「住宅改修の「理由書」は誰が書くのか」に詳しく書きました。あわせて読むと、なぜ「場面」が要るのかが分かりやすいと思います。
2. 要望ではなく「場面」を伝える
ここが一番大事なところです。
多くのご家族は、すでに答えの形にして伝えてくださいます。
「手すりをつけてほしい」 「デイサービスを増やしてほしい」 「ベッドを借りたい」
お気持ちはよく分かります。でも、これは要望です。要望だけを受け取っても、ケアマネさんは根拠を書けません。
伝えてほしいのは、その要望が生まれた場面のほうです。
✕ 要望 → ⭕️ 場面
| 伝えがちなこと | 伝えてほしいこと |
|---|---|
| 手すりをつけてほしい | 玄関で靴を履くとき、ふらついて壁に手をついた |
| デイサービスを増やしたい | 日中ずっと座ったままで、1日誰とも話していない日がある |
| ベッドを借りたい | 布団から立ち上がるのに、5分かかるようになった |
| もっと来てほしい | 私が仕事に戻ったので、平日の日中は誰もいない |
| 危ないので何とかしたい | 先週、夜中にトイレに行く途中で滑って尻もちをついた |
右側を伝えると、ケアマネさんが「では何が必要か」を考えられます。
そして——ここが大事なのですが——プロが考えると、ご家族が思っていたのとは違う答えが出てくることがあります。
「手すりをつけてほしい」と言われた場面が、実は手すりでは解決せず、靴を履く場所に椅子を置くだけで済んだ。そういうことが、現場では本当によくあります。
要望の形で伝えると、その可能性が消えてしまいます。
3. 「いつ・何回・どのくらい」を添える
場面に、この3つを足してください。これだけで書類が書けるようになります。
① いつ 「先週の水曜の夜」「お盆に帰ったとき」——だいたいで構いません。
② 何回 「今月に入って3回」「週に2回くらい」。頻度は緊急度の判断材料になります。1回きりなのか、繰り返しているのかで、動き方が変わります。
③ どのくらい 「20cmの段差」「5分かかる」「10メートル歩くと休む」。数字は強いです。
メジャーで測る必要はありません。「膝くらいの高さ」でも十分です。
例:同じことを伝えても、こう変わります
伝わりにくい
最近、母の足元が危なくて心配なんです。
伝わる
今月に入って、夜中にトイレへ行く途中で2回ふらつきました。1回は壁に手をついています。廊下には手すりがありません。日中は大丈夫そうです。
後者なら、ケアマネさんはその日のうちに動けます。
4. 月1回の訪問を待たないでください
ケアマネさんは、月に1回はご自宅に来る決まりになっています(モニタリング訪問)。
多くのご家族が、「次に来たときに言おう」と考えます。
待たなくて大丈夫です。
転びかけた、食事が減った、夜眠れていない——こういう変化は、気づいた日に電話やメールで伝えてください。
理由は2つあります。
① 忘れるからです 2週間後には、ご家族自身が細部を忘れています。「先週だったか先々週だったか…」となると、書類が書けません。
② 変化のスピードが分かるからです 「先月は月1回だったのが、今月は週2回になった」——これが分かると、悪化しているという判断ができます。 月1回の報告では、この差が見えません。
⚠️ ただし、緊急のときは救急車です。 ケアマネさんへの連絡は、あくまで生活を組み直すためのものです。
5. 言いにくいなら、毎週来る人に言ってください
これは、他職種だからこそお伝えできることです。
ケアマネさんに直接言うのは、気を使うと思います。「こんなことで電話していいのかな」「忙しそうだし」——そう感じるのは自然です。
そういうときは、毎週来ている人に言ってください。
- 訪問リハビリの理学療法士・作業療法士
- 訪問看護師
- ヘルパーさん
- デイサービスの送迎の方
私たちは、ケアマネさんに報告する義務があります。
訪問リハビリなら、毎月の報告書をケアマネさんに提出しています。そこに「ご家族より、夜間のふらつきについて相談あり」と書けば、それが正式な情報としてケアマネさんに届きます。
しかも私たちは、その場面を専門職の言葉に置き換えて伝えられます。「ふらついた」を「夜間、覚醒直後の起立性低血圧の可能性」と書けば、ケアマネさんが動く根拠として、より強くなります。
遠慮しなくて大丈夫です。 むしろ、リハビリの時間に世間話のように話してくださったことから、大事な変化に気づくことがよくあります。
6. 家族側の窓口は、1人に決めてください
最後に、これはお願いに近い話です。
ご兄弟が何人かいる場合、それぞれが別々にケアマネさんへ連絡していることがあります。
悪いことではありません。ただ、こうなりがちです。
- 兄は「施設を考えている」と言い、妹は「家で見たい」と言う
- 同じ話が二重に伝わり、状況が実際より深刻に見える
- 誰の意見をプランに反映すべきか、ケアマネさんが判断できない
結果、動きが止まります。
全員が関わるのは良いことです。でも、ケアマネさんへの窓口だけは1人に決めてください。 家族の中で話し合った結果を、その1人が伝える。これだけで、話が驚くほど早く進みます。
退院前のカンファレンスでも同じです。詳しくは「退院前カンファレンスで、家族が聞いておくべきこと」に書きました。
まとめ
- ケアマネさんが動けないのは、やる気ではなく根拠が足りないことが多い
- 要望ではなく「場面」を伝える。「手すりがほしい」ではなく「玄関でふらついた」
- いつ・何回・どのくらいを添える。数字は「膝くらいの高さ」で十分
- 月1回の訪問を待たない。 気づいた日に電話でいい
- 言いにくければ、毎週来ている人に言えば正式に伝わる
- 家族側の窓口は1人に決める
ケアマネさんは、月1回の訪問と電話だけが情報源です。見えていないことは、伝えられない限り存在しないのと同じになってしまいます。
「言うほどのことでもないかな」——そう思ったことこそ、伝えてください。そこから変わることが、本当によくあります。
親の家をどうするか全体の流れは「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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