介護保険の住宅改修費20万円には、もう一度使える条件が2つあります。
- 3段階リセット(介護の必要の程度が3段階以上重くなったとき)
- 転居リセット(引っ越したとき)
前回は3段階リセットを書きましたが、実務でよく使われるのは、こちらの転居リセットです。
そして「親の家をどうするか」で悩んでいるご家庭にとって、これはかなり実用的な制度です。
実家を出て、子どもの家に引き取る。 そのとき——子の家の改修に、親の介護保険が使えます。
意外に知られていないので、今日はここを詳しく書きます。
この記事の結論
- 引っ越すと、新しい住まいで20万円がもう一度使える
- ⭐️ 親を引き取る場合、子の家の改修にも使える(家の名義は子でも構いません)
- ⭐️ 条件は「その家の住所が、介護保険被保険者証の住所であること」。つまり住民票を移す必要があります
- 一時的に泊まりに来ているだけでは、対象になりません
- 施設への入所は対象外。ただしサ高住など「住宅」扱いの住まいは対象になることも
- ⚠️ 運用は市区町村で差があります。動く前に必ず窓口へ確認を
1. 転居リセットの仕組み
引っ越して住む家が変わると、新しい家について、また20万円まで使えます。
理屈はシンプルです。
20万円の枠は「人」ではなく「住まい」についている。
家が変われば、その家に合わせた手すりや段差解消が必要になります。前の家で使い切ったから新居では何もできない——これでは制度の意味がありません。だから枠が新しくなります。
3段階リセットと違って、介護度は関係ありません。 要支援1でも要介護5でも、引っ越せばリセットされます。
自治体の案内では、「1つの住民票住所地につき20万円」という書き方をしています。回数の定めもありません(3段階リセットは1人1回だけです)。
2. ⭐️ 親を引き取るとき、子の家に使えます
ここが一番お伝えしたい部分です。
実家で一人暮らしをしていた親を、自分の家に引き取る。 よくある形です。
このとき——
| 改修する家 | 子の家 |
| 家の名義 | 子 |
| お金を出す制度 | 親の介護保険 |
| 使えるか | ⭕️ 使えます |
家の名義が誰かは関係ありません。 大事なのは「その家に、被保険者本人(親)が住んでいるか」です。
たとえば、こういう工事
- 玄関の上がり框に手すりをつける
- 廊下からトイレまで手すりを連続させる
- 親の部屋と廊下の敷居を撤去する
- 浴室の出入り口の段差を解消する
子の家を、親が暮らせる家に変える。 その費用に、20万円まで使えます(自己負担1〜3割)。
3. 条件は「実際に住んでいること」
ここが一番の関門です。
制度の対象になるのは、被保険者が実際に居住している住宅です。
| 対象になるか | |
|---|---|
| 親の住民票を子の家に移し、そこで暮らす | ⭕️ 対象 |
| 週末だけ泊まりに来る | ❌ 対象外 |
| 入院中で、退院後に住む予定 | ⭕️ 特例あり(下記) |
| 数か月だけ様子を見に来ている | 🟡 要確認 |
⭐️ 入院中でも、先に工事できる特例があります
退院してから工事を始めると、その間、家に手すりがありません。 そこで制度には例外が用意されています。
自治体の手引きには、こう書かれています。
「やむを得ない事情がある場合」とは、入院又は入所者が退院又は退所後の住宅での受け入れのため、あらかじめ住宅改修に着工する必要がある場合等
つまり——退院前に、先に工事を始められます。
⚠️ ただし条件があります。
- 通常とは別の理由書(入院・入所中用)が必要になります
- 事後申請のときに、退院日が分かる書類を出します
- 退院・退所できなかった場合は、支給対象外になります
最後の一行が重いです。 容体が変わって退院できなくなったら、工事費は全額自己負担です。
この特例を使うかどうかは、退院の見通しがはっきりしてから判断してください。
自治体の手引きには、支給要件としてこう書かれています。
住宅改修の対象となる住宅の住所が、介護保険被保険者証に記載されている住所であること
被保険者証の住所は、住民票の住所です。つまり——住民票を移していない家は、対象になりません。
介護保険は住所地の市区町村が保険者なので、住所が動くと保険者も変わり、申請の窓口も引っ越し先になります。
⚠️ 住民票を移すと、担当のケアマネジャーも変わる可能性があります。 引っ越し先の地域包括支援センターで、新しく事業所を探すことになります。改修だけの話では済みません。
「試しに住んでみる」なら、先に確認を
現場でよく聞くのが、「まず数か月、様子を見てから決めたい」というご相談です。
気持ちはとてもよく分かります。ただ——住民票をどう扱うかが、申請できるかどうかに直結します。
ここは自治体によって判断が分かれる部分です。
「住民票を移していない状態でも、申請できますか」
引っ越しを決める前に、この一言を市区町村に聞いてください。 あとから「対象外でした」となると、20万円がまるごと自己負担になります。
4. 施設に入る場合はどうなるか
種類によって、まったく違います。
| 住まい | 住宅改修 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム | ❌ 対象外 |
| 介護老人保健施設(老健) | ❌ 対象外 |
| グループホーム | ❌ 対象外 |
| サービス付き高齢者向け住宅 | 🟡 対象になることがある |
| 有料老人ホーム(住宅型) | 🟡 対象になることがある |
施設は、もともと設備が整っている前提なので対象外です。
いっぽうサ高住や住宅型有料老人ホームは、賃貸借契約を結んで「自分の住まい」として住む形なので、居室内の改修が対象になる場合があります。
⚠️ ただし「制度上は対象になりうる」というだけで、実際にできるかは別です。
- 建物の所有者(運営事業者)の承諾が要ります
- 退去時の原状回復をどうするか、決めておく必要があります
- そもそも居室に手すりが最初から付いていることも多く、改修が不要な場合もあります
契約前に、施設と市区町村の両方に確認してください。
「介護保険の住宅改修は使えますか」
この確認を飛ばして工事すると、全額自己負担になりかねません。
賃貸住宅での考え方は賃貸住宅でも介護の住宅改修はできるにまとめています。基本の構造は同じです。
5. 元の家に戻ったら、どうなるか
よく聞かれる質問です。
実家 → 子の家 → また実家に戻る
この場合——
| 子の家で使った20万円 | そのまま(戻りません) |
| 実家の枠 | 前に使った残額のまま |
実家の枠が復活するわけではありません。 昔20万円を使い切っていたら、戻っても使えるお金はありません。
枠は「住まいごと」に管理されている——この理解で合っています。
6. 実務では、こういう順番になります
引き取りを決めてから工事完了まで、思ったより時間がかかります。
① 引き取ることを家族で決める
② 親の住民票を移す
③ 引っ越し先の地域包括支援センターに連絡
④ 新しいケアマネジャーが決まる
⑤ 「住宅改修が必要な理由書」を作ってもらう
⑥ 見積もりを取る
⑦ 市区町村に事前申請 ← ここを飛ばすと全額自己負担
⑧ 工事
⑨ 支給申請
②〜④だけで2〜4週間かかることも珍しくありません。 ケアマネジャーが決まらないと、⑤の理由書が書けないからです。
理由書については住宅改修の「理由書」は誰が書くのかに、申請から工事完了までの実際の日数は退院日が決まってからでは間に合わないに書いています。
⚠️ 「引っ越してきた日から手すりを使いたい」は、まず間に合いません。 引き取りが決まった時点で動き始めてください。
7. 訪問リハビリの現場から
正直に書きます。
引き取りが決まってから相談されることが、ほとんどです。「来月、母がうちに来ることになりました」——それから慌てて手すりの話が始まります。
でも、本当に見てほしいのはその前です。
| 引き取る前 | 子の家で、親が暮らせるかどうか |
| 引き取ったあと | どこに手すりをつけるか |
2階建ての家で、親の部屋が2階。トイレが遠い。廊下が狭くて歩行器が通らない——改修では解決できないこともあります。
20万円は、間取りを変えるには足りません。
「引き取れるかどうか」を先に見て、それから「どこを直すか」——この順番だと、無駄がありません。ケアマネジャーやリハビリ職に、事前に見てもらうことをおすすめします。
まとめ
- 引っ越すと、新しい住まいで20万円がもう一度使える
- ⭐️ 親を引き取る場合、子の家の改修にも使える(名義は子でもOK)
- 条件は「親が実際に住んでいること」。住民票を移すのが基本
- 週末だけ泊まりに来る、では対象外
- 施設は対象外。サ高住・住宅型有料老人ホームは対象になることも(承諾と原状回復の確認を)
- 元の家の枠は復活しません
- 引き取りが決まったら、すぐ動く。ケアマネジャーが決まるまでに時間がかかります
もうひとつのリセット条件は住宅改修の20万円がもう一度使える「3段階リセット」に、制度の基本は介護保険の住宅改修費20万円、損しない使い方にまとめています。
実家の話全体の進め方は「親の家、どうする?」完全ガイドからどうぞ。
なお、この記事は制度の一般的な内容をまとめたものです。転居の扱いや必要書類は、市区町村によって運用が異なります。 実際の判断は、担当のケアマネジャーまたは引っ越し先の介護保険担当窓口に、動く前にご確認ください。
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