宅建士が家族信託を勉強してみた——名義と税金がずれる話 相続

宅建士が家族信託を勉強してみた——名義と税金がずれる話

宅建士の勉強をして、大家として自分の物件を見てきたので、「誰が持っていて、誰に移るのか」という話には慣れているつもりでした。

それなのに、家族信託のテキストを読んでいて、何度も手が止まりました。

「名義が子に移る」と書いてある。そのすぐあとに「贈与税はかからない」と書いてある。……名義が移ったのに、税金がかからない?

ここで完全に詰まりました。

今日は、制度の解説ではなく、私がどこでつまずいて、どう腑に落ちたかをそのまま書きます。同じところで止まる方は、たぶん多いと思うからです。

(家族信託そのものの仕組みは家族信託とは?の記事にまとめてあります。この記事はその続きのような位置づけです)

この記事の結論

  • 家族信託は、「持っている人」と「得をする人」を分ける仕組みです
  • 名義(登記)は子に移るのに贈与税がかからないのは、得をする人が親のままだからです
  • 受託者になった子は、名義人なのに自分のために使えません
  • 信託財産に入るのは、手続きをして入れたものだけ。全財産が自動で入るわけではありません
  • 遺言にはできない「その次の代まで指定する」ことができます
  • ただし、施設の入所契約などは家族信託ではできません

1. まず「信託」という言葉でつまずいた

正直に書くと、最初に「信託」と聞いて思い浮かんだのは投資信託でした。運用してもらうもの、というイメージです。

でも、そうではありませんでした。

信託=「信じて託す」。 それ以上の意味はありません。財産を、信頼できる人に預けて、決めた目的のために管理してもらう。それだけの言葉です。

投資の話ではなく、財産の管理を任せる契約なのだと分かったところで、ようやくテキストが読めるようになりました。

ここで止まっている方がいたら、まずここだけ切り離してください。運用の話は一切出てきません。

2. いちばんつまずいたところ——名義と税金がずれる

さて、本題です。

家族信託で実家を信託すると、登記の名義は受託者(多くは子)に変わります。登記簿には「受託者 ○○」と載ります。

宅建の知識でいくと、ここで反射的にこう思ってしまいます。

名義が動いた=財産が動いた=贈与税がかかる

ところが、テキストには「贈与税はかからない」と書いてある。ここが分からなくて、しばらく先に進めませんでした。

腑に落ちたのは「得をする人」で考えたとき

答えは、税金は「名義を持つ人」ではなく「得をする人」にかかる、ということでした。

家族信託には、3つの役割が出てきます。

役割誰がやるか何をする人か
委託者財産を預ける人
受託者財産を管理する人(名義がここに来る)
受益者財産から利益を受ける

ポイントは、受益者が親のままだということです。

実家を貸して家賃が入れば、それは親のもの。売れば、その代金も親のもの。経済的には、何も動いていません。

動いたのは管理する権限だけ。だから贈与税もかからない——そういう理屈でした。

「所有権を2つに割る」という発想

ここが分かったとき、宅建の世界にはない考え方だと思いました。

宅建で扱う所有権は、基本的に一体のものです。持っている人が、使って、収益を得て、処分する。全部セットです。

家族信託は、そのセットを「管理する力」と「得をする権利」に割って、別の人に持たせる仕組みでした。

前の記事で「運転席だけ先に渡す」と書きましたが、車の名義も運転席側に移る。でも、その車で稼いだお金は助手席の親のもの——というイメージのほうが、私にはしっくりきました。

3. 受託者は名義人なのに、自由に使えない

次につまずいたのがここです。

登記上は子が名義人です。普通なら、名義人は好きにできます。売っても、貸しても、担保に入れても自由です。

でも受託者は違いました。信託契約で決められた目的の範囲でしか動けません。

しかも、こういう義務があります。

  • 分別管理義務——信託された財産と、自分の財産を分けて管理しなければならない
  • 忠実義務——受益者(親)の利益のために動かなければならない
  • 帳簿をつける義務——収支を記録し、報告する

つまり、名義はあるのに、自分のものではない。この感覚が、最初はどうにも掴めませんでした。

「預かっている」という言葉がいちばん近いのだと思います。名義は預かるための形であって、あげたわけではない、ということです。

⚠️ ここは、受託者になる子の側の負担としても大きいところだと感じました。「名義をもらえる」という話ではまったくないので、引き受ける前によく理解しておく必要があります。

4. 信託財産は「入れたものだけ」

これも意外でした。

家族信託を結べば、親の財産が全部まとめて管理下に入る——と、なんとなく思っていました。

違いました。信託契約に書いて、手続きをしたものだけが信託財産になります。

財産入れるための手続き
不動産信託の登記をする
現金信託専用の口座に移す
書かなかったもの入らない(親の財産のまま)

つまり、実家だけ信託して、預貯金は入れなかったという場合、預貯金は親の名義のまま残ります。そして親が認知症になれば、その預貯金は結局凍結されます

「家族信託をしたから安心」ではなく、「何を入れたか」で結果が変わるわけです。

(凍結が何を意味するかは認知症になる前に家族で話しておくことの記事でも触れています)

5. 遺言にはできないことができる

ここは、勉強していていちばん「なるほど」と思った部分です。

遺言でできるのは、自分の財産を、誰に渡すかまで。その人がさらに誰に渡すかまでは指定できません。

家族信託では、受益者が亡くなったあと、次に誰が受益者になるかを決めておけるとされています。

たとえば「まず自分、次に配偶者、その次に長男」という順番を、あらかじめ契約に書いておく、という形です。

先の代まで意思をつなげるという発想は、遺言だけを見ていたときにはなかったものでした。

⚠️ ただしこれは期間の制限などの細かい決まりがあり、家庭の事情によって適するかどうかも変わります。ここは完全に専門家の領域だと感じました。

6. 勉強してみて分かった「できないこと」

最後に、限界も書いておきます。

家族信託は財産の管理の仕組みです。人の身の回りのことは扱えません。

  • 施設への入所契約
  • 入院の手続き
  • 介護サービスの契約

こうしたものは「身上監護」と呼ばれ、成年後見の領域になります。家族信託を結んでいても、ここは別途考える必要があります。

「家族信託をしておけば成年後見はいらない」という説明を見かけることがありますが、財産の話に限れば、という条件つきだと理解しました。

(家族信託と成年後見の違いは家族信託とは?の記事で比べています)

まとめ——つまずいた順に並べると

  1. 「信託」は投資の話ではない。信じて託す、それだけ
  2. 名義が移っても贈与税がかからないのは、得をする人が親のままだから(ここが最大の山でした)
  3. 受託者は名義人なのに、自分のためには使えない
  4. 信託財産は、入れたものだけ。全財産が自動で入るわけではない
  5. 次の代まで指定できるのは、遺言にはない特徴
  6. 施設の入所契約などはできない。そこは成年後見の領域

名義は名義、税金は税金と別々に覚えてきた私には、2番がとにかく引っかかりました。 逆に言えば、ここさえ超えれば、あとは素直に読めます。

「名義」と「得をする権利」は別々に動かせる。 この一文を先に頭に入れてからテキストを開いていれば、私はもっと早く進めたと思います。

なお、家族信託の設計は、税務・法務の両方が絡む専門的な分野です。この記事はあくまで勉強の記録であって、個別のご家庭に何が適しているかの判断はできません。実際に検討される際は、必ず司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

相続の準備をしている家族は何をしているかの記事もあわせてどうぞ)

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。