入院中に家族ができる練習——病院でできても家でできない理由 介護リフォーム

入院中に家族ができる練習——病院でできても家でできない理由

「病院のリハビリでは、手すりにつかまって歩けていたんです。でも、家に帰ってきたら、トイレまで行けなくて」

退院したばかりの家で、こうした声を聞くことがあります。病院でできていたことが、家ではできない。本人も家族も、「リハビリしてきたのに、どうして?」と戸惑います。

この記事では、訪問リハビリの理学療法士(PT)として退院直後の家で見てきたことから、病院でできても家でできない理由と、入院中に家族ができることをまとめます。

この記事の結論

  • 病院と家では、ベッドの高さ・手すりの位置・床・トイレまでの距離がちがう。だから病院でできたことが、家ではできないことがある
  • 退院直後の家でよく見るのは、家でできない・家族が介助のやり方を知らない・夜のトイレで困るの3つ
  • 入院中に家族ができることは3つ。介助を自分の手でやってみる、家の写真と寸法を病院に渡す、外出・外泊の練習ができるか聞く
  • いちばん伝えたいのは、リハビリを見学で終わらせず、一度は自分の手で介助してみること
  • 病院のリハビリ担当に「家と同じ条件で練習できますか?」と聞いてみる

まず、なぜ病院でできたのに家でできないのか

病院のリハビリ室や病棟は、動きやすいように作られた場所です。家は、そうではありません。

病院家
ベッド高さを変えられる介護用ベッド低い布団や、高さの合わないベッド
手すり廊下・トイレ・ベッドの横など、あちこちにあるないか、あっても位置がちがう
床段差が少なく、すべりにくい敷居・玄関の段差・じゅうたんの端がある
トイレまで近い・明るい・夜も看護師がいる遠い・暗い・夜は家族が寝ている
見守りいつも誰かがそばにいる一人になる時間がある

同じ「立つ」「歩く」でも、つかまる物や足元がちがえば、体の使い方が変わります。病院で練習した動きが、そのまま家で使えるとはかぎらないのです。

現場から——退院直後の家でよく見る3つの困りごと

訪問リハビリで退院したばかりの家にうかがうと、次の3つをよく見ます。

  1. 病院でできたのに、家でできない 病院では手すりにつかまって歩けていたのに、家には同じ場所に手すりがない。ベッドの高さがちがって、立ち上がれない
  2. 家族が介助のやり方を知らない 病院で教わる機会がなかった、または見学しただけで自分ではやっていない。いざ家で支えようとして、どこを持てばいいか分からない
  3. 夜のトイレで困る 病院では夜も看護師がいた。家では、暗い中を一人で行こうとしたり、家族が何度も起こされたりする

どれも、本人の力が足りないからではありません。病院と家の条件のちがいが、退院した日に一気に出てくるのです。夜のトイレについては「夜間のトイレが一番危ない」にもまとめています。

家族ができること①|介助を、自分の手でやってみる

入院中に家族ができることで、いちばん大事なのがこれです。

私も病院に勤めていたころ、退院前のご家族に介助のやり方をお伝えしていました。そのときに感じていたのは、見ているだけと、自分でやってみるのとでは、まったくちがうということです。

  • どこを持つと、親が立ち上がりやすいか
  • 親が体重をかけたとき、自分の体がどれくらい引っぱられるか
  • どのタイミングで声をかけると、親が動きやすいか

こうしたことは、一度自分の手でやってみないと分かりません。リハビリの見学に行ったら、「私が介助してみてもいいですか?」と聞いてみてください。

練習しておきたい場面は、次の3つです。

場面練習しておきたいこと
ベッドから立つ・座る足の位置、どこを支えるか、立つ前の声かけ
トイレ便座の前での向きの変え方、ズボンの上げ下ろし
歩く横か後ろか、どこに立って見守るか

入浴は、介助の負担が大きく、すべりやすい場所です。家族だけで始めず、デイサービスや訪問の入浴などを使えないか、ケアマネジャーと相談するのも一つの方法です。

家族ができること②|家の写真と寸法を、病院に渡す

もう1つ大事なのが、家の様子を、病院のリハビリ担当に伝えることです。

病院のリハビリ担当は、家を見たことがありません。家の様子が分かれば、家と同じ条件に近づけて練習することができます。

渡しておくと役に立つのは、次のようなものです。

  • 玄関・トイレ・お風呂・寝室・廊下の写真(スマホで十分)
  • ベッドや布団の高さ、トイレの便座の高さ
  • 段差の高さ(玄関の上がりかまち、敷居など)
  • 寝室からトイレまでの道のり(何歩くらいか、途中に段差はあるか)

写真と数字があれば、病院で「家のベッドは低いので、低い台から立つ練習をしましょう」といった工夫ができます。家のどこを見ればいいかは「退院前の家屋調査で、PTは家のどこを見ているのか」にまとめています。

家族ができること③|外出・外泊の練習ができるか聞く

病院によっては、退院の前に一時的に家に帰って過ごす練習(外出・外泊)をすることがあります。

実際に家で過ごしてみると、病院では分からなかった困りごとが見えてきます。見つかった困りごとを病院に持ち帰れば、退院までに練習の内容や、手すり・道具の準備を見直すことができるのです。

外出や外泊ができるかどうかは、病院や、本人の体の状態によってちがいます。できる場合は、次のことを確かめておくと役に立ちます。

  • ベッドや布団から、一人で立てるか
  • トイレまで行けるか。とくに夜はどうか
  • 玄関の段差を上がれるか

外出・外泊ができない場合でも、①と②をしておけば、退院の日の困りごとは減らせます。

まとめて聞ける、ひとつの質問

入院中に、病院のリハビリ担当に会えたら、こう聞いてみてください。

「家と同じ条件で、練習できますか? 私も一度、介助してみたいです」

この一言で、家の写真や寸法を渡すきっかけになり、家族が介助を練習する時間も作ってもらいやすくなります。退院前カンファレンスで聞いておきたいことは「退院前カンファレンスで、家族が聞いておくべきこと」にまとめています。

よくある質問

仕事があって、リハビリの見学に行けません。どうすればいいですか?

病院のリハビリ担当に、見学や介助の練習ができる日時を相談してみてください。家族の都合に合わせて時間を調整してもらえることもあります。行ける回数が少ないなら、その1回で「自分でやってみる」ことを優先しましょう。

リハビリの様子を、スマホで撮影してもいいですか?

病院によって決まりがちがうので、撮影してよいか先に確認してください。許可が出れば、介助のやり方を動画で残しておくと、家でほかの家族に伝えるときにも役立ちます。

退院してから、介助のやり方を教えてもらうことはできますか?

できます。訪問リハビリなどを使えば、家の中で、家の条件に合わせて介助のやり方を確認できます。退院後のサービスについては、ケアマネジャーに相談してください。

この記事のまとめ

  • 病院と家では、ベッド・手すり・床・トイレまでの距離がちがう
  • 退院直後によく見るのは、家でできない・家族が介助を知らない・夜のトイレ
  • 入院中に家族ができるのは、介助を自分の手でやってみる・家の写真と寸法を渡す・外出・外泊の練習ができるか聞く
  • 病院のリハビリ担当には「家と同じ条件で、練習できますか?」
あわせて読みたい退院前の家屋調査で、PTは家のどこを見ているのか——家族が準備しておくこと退院前に理学療法士や作業療法士が自宅を訪問する「家屋調査(家屋訪問)」。何をしているのか分からないまま終わってしまう家族が多いのが実情です。PT…

外出・外泊の練習や家族への介助の指導は、病院や本人の状態によって異なります。病院のリハビリ担当や、ケアマネジャーにご確認ください。

親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。

けいすけ(運営者)

理学療法士(訪問リハビリ歴10年以上)× 宅地建物取引士 × 賃貸不動産経営管理士 × 大家歴10年以上。 医療と不動産、両方の現場から見えてくる「親の家のリアル」を、なるべくフラットな視点で発信しています。