「去年、手すりをつけて段差もなくしたのに、結局、施設に入ることになって。あの工事は何だったんだろう」
親の介護で、こういう気持ちになる家族は少なくありません。お金をかけて家を直したのに、親はもうその家にいない。むなしさと、「もっと別のやり方があったのでは」という後悔が残ります。
この記事では、訪問リハビリの理学療法士(PT)として現場で見たケースをもとに、改修の費用はムダだったのか、避けられたのかを考えます。これから改修を考えている家族にも、読んでほしい内容です。
この記事の結論
- 手すり・段差など介護保険の範囲の小さな改修なら、自己負担は数万円。1年で施設に移っても、損は大きくない
- 施設に入ると、介護保険の住宅改修は使えなくなる。入院中に申請した工事も、家に戻らなければ支給されない
- 分かれ目は「病気が、この先悪くなりやすいか」。悪化や再入院をくり返しやすい病気なら、大きな工事は慎重に
- 家の工夫で防げるのは転倒や移動の不便。病気の悪化そのものは、家では防げない
- 私が現場でふり返って思うのは、改修の前に「この先の見通し」を家族で話しておくことの大切さ
- 施設に移っても、家をどうするかは、すぐに決めなくていい
現場から——小さな改修のあと、1年ほどで施設に移った方
私が訪問リハビリで関わった方の中に、手すりの取り付けや段差の解消など、介護保険の範囲で小さな改修をした方がいました。
ところが、その後、持病が悪くなって入院をくり返し、1年ほどで施設に移ることになりました。家の中で転んだからではありません。病気そのものが進んだためです。
今ふり返って、一つだけ「こうすればよかった」と思うことがあります。それは、改修の前に、この先の見通しを家族ともっと話しておくことです。
病気がこの先どうなりそうか。家で暮らせるのは、どのくらいの期間を見込むのか。施設を考えるとしたら、どんなときか。こうした話が先にあれば、家族は改修の規模を決めやすく、施設に移るときも、もう少し落ち着いて決められたはずです。
分かれ目は「病気が、この先悪くなりやすいか」
改修してすぐ施設に移るかどうかの分かれ目は、家の問題か、病気の問題かです。
| 家の工夫で防げるもの | 家の工夫では防げないもの | |
|---|---|---|
| 例 | 段差でのつまずき、立ち上がりのふらつき、トイレ・お風呂の動きにくさ | 病気の悪化、入退院のくり返し、夜中も続く介護の手間 |
| 改修の効き目 | 大きい | ほとんどない |
転倒や動きにくさが理由で家での生活が難しくなっている場合は、改修がよく効きます。一方で、持病が悪くなりやすい人は、家をどれだけ直しても、病気の進み方で施設が必要になることがあります。
悪化や再入院をくり返しやすい病気を持っている親の場合は、改修を「小さく、試しながら」進めるのが安全です。どんな病気がそれにあたるかは、人によって違うので、主治医に聞いてください。
改修の費用は、どこまでムダになるのか
介護保険の範囲なら、自己負担は数万円
介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までが保険の対象です。自己負担は1〜3割なので、20万円の工事なら、自己負担は2万〜6万円です。
1年で施設に移ったとしても、その1年、親が家で暮らすための支えだったと考えれば、大きな損ではありません。20万円の枠は分けて使えるので、一度に使い切らずに残しておくこともできます。考え方は「住宅改修の20万円は分けて使えます」にまとめています。
注意したいのは、自費を足した大きな工事です。浴室を丸ごと入れ替える、家じゅうの段差をなくす、といった工事は、施設に移ったときに戻ってくるお金がありません。
施設に入ったあとの扱い
改修のタイミングによって、介護保険の扱いが変わります。市区町村の案内では、おおむね次のとおりです。
| タイミング | 介護保険の住宅改修 |
|---|---|
| 施設に入所している間 | 使えない(家で暮らしていないため) |
| 入院中に、退院を前提に申請した | 使える。ただし、家に戻らなかった場合は支給されない |
| 工事の途中で入院・死亡した | 完成していた部分だけが対象 |
つまり、「施設に入るかもしれない」と迷っている時期に急いで工事をすると、支給されずに全額自費になることがあります。迷っているときこそ、急がないことが大切です。
改修の前に、先の見通しを聞いておく
改修を決める前に、次の3つを聞いておくと、規模を決めやすくなります。
- 主治医に:「この病気は、この先どう進みそうですか。入院が増えそうですか」
- ケアマネジャーに:「この状態で、家での生活はどのくらい続けられそうですか。施設を考えるのは、どんなときですか」
- 担当のPT・OTに:「今の体の状態なら、どこまで工事が必要ですか。レンタルの福祉用具で代わりになりませんか」
病院から家に帰るときなら、退院前の話し合いが一番のチャンスです。聞くことは「退院前カンファレンスで、家族が聞いておくべきこと」にまとめています。
答えがはっきりしないこともあります。それでも、「先のことも考えています」と家族が伝えるだけで、専門職は工事の規模を一緒に考えてくれるものです。
最初から大きな工事をしないほうがいい理由
改修を考えるときは、最初から大きな工事をしないほうが安全です。理由は3つです。
- 体は、これからも変わる。今の体に合わせて作った家が、1年後には合わなくなることがある
- レンタルで試せる。置くタイプの手すりや歩行器なら、合わなければ返せる
- お金は、この先にも必要になる。施設に入るとき、入ってからの費用も、親のお金から出ることが多い
小さく始めて、効いたものだけを工事にする。この順番なら、施設に移ることになっても、「あの工事は何だったんだろう」という後悔は小さくなります。
施設に移ったあと、家はすぐに決めなくていい
親が施設に移ると、「家をどうするか」という話がすぐに出てきます。でも、急いで決める必要はありません。
- 体が回復して、家に戻れる可能性がある
- 親自身の気持ちが、まだ整理できていない
- 売る、貸す、そのまま残す、どれを選ぶかで、税金や手続きが変わる
親が「家を売りたい」と言い出したときに、子が確かめることは「親が「家を売る」と言い出したら」にまとめています。売る以外の道も、表で比べています。
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よくある質問
介護保険で改修した場合、自己負担はいくらですか?
介護保険の住宅改修は、工事費20万円分までが保険の対象です。自己負担は1〜3割なので、20万円の工事なら2万〜6万円になります。
施設に入っている間に、住宅改修は使えますか?
施設に入所している間は使えません。家で暮らしていないためです。「施設に入るかもしれない」と迷っている時期は、急いで工事をしないことが大切です。
入院中に工事を申請しても大丈夫ですか?
退院を前提に申請した工事なら使えます。ただし、家に戻らなかった場合は支給されず、全額自費になることがあります。工事の途中で入院・死亡した場合は、完成していた部分だけが対象です。
20万円の枠は、一度に使わないといけませんか?
20万円の枠は分けて使えるので、一度に使い切らずに残しておくこともできます。まずは置くタイプの手すりや歩行器などのレンタルで試して、効いたものだけを工事にすると安全です。
改修の前に、誰に何を聞けばいいですか?
主治医には病気の先の見通しを、ケアマネジャーには家での生活がどのくらい続けられそうかを、担当のPT・OTにはどこまで工事が必要かを聞いておきましょう。介護保険の内容や手続きは市区町村・年度で異なるので、窓口でも確認してください。
この記事のまとめ
- 介護保険の範囲の小さな改修なら、自己負担は2万〜6万円。1年で施設に移っても、損は大きくない
- 施設に入所中は、介護保険の住宅改修は使えない。入院中の申請も、家に戻らなければ支給されない
- 分かれ目は「病気が、この先悪くなりやすいか」。家の工夫で病気の悪化は防げない
- 改修の前に、主治医・ケアマネジャー・PTに、この先の見通しを聞いておく
- 大きな工事は、レンタルで試してから。効いたものだけを工事にする
- 施設に移っても、家をどうするかは急いで決めなくていい
体の状態や病気の進み方は、一人ひとり違います。改修を決める前に、主治医やケアマネジャー、担当の理学療法士・作業療法士にご相談ください。介護保険の住宅改修の内容や手続きは、市区町村・年度で異なります。窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
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