「最近、母が料理をしなくなって。台所に長く立っているのがつらいみたいで」
帰省したときに、こう気づく家族は多いと思います。惣菜や宅配のお弁当が増えて、台所がきれいなまま。
私も訪問先で、台所に立つのがつらくなって、料理をやめた方、回数を減らした方を見てきました。
でも、料理は「やめるか、続けるか」の二択ではありません。座ってできる作業は座る、立つのは短く。台所の使い方を少し変えるだけで、続けられることが多いのです。この記事では、そのための3つの工夫を書きます。
この記事の結論
- 台所で起きやすい困りごとは2つ。長い時間立っていられないことと、転ぶこと
- 料理は、立つ・歩く・手を使う・段取りを考える、が全部入った生活の中の運動。やめると動く量がぐっと減る
- 工夫①:座る作業と立つ作業を分ける。切る・むく・混ぜるは座って。火の前だけ立つ
- 工夫②:転ばない通り道をつくる。コンロ・シンク・冷蔵庫の間の床に物を置かない。マットの端に気をつける
- 工夫③:よく使う物を腰から肩の高さに。かがむ・背伸びをなくす
- 家族は、代わりに全部作るより、一品だけ一緒に作るほうが、親の力を残せる。下ごしらえ済みの料理キットも手
台所で起きやすい、2つの困りごと
訪問先で台所の話になると、困りごとはだいたいこの2つに集まります。
| 困りごと | よくある場面 | 体で起きていること |
|---|---|---|
| 長い時間立っていられない | 下ごしらえの途中で休みたくなる。腰や膝が痛くなる | 立ち続ける力が落ちている。腰や膝に負担がたまる |
| 転ぶ・ふらつく | 振り向いて冷蔵庫に向かうとき。重い鍋を持って移動するとき。マットにつまずく | 向きを変える動きでバランスを崩す。物を持つと手すりがわりの台に手をつけない |
1つ目は「疲れるからやめたい」、2つ目は「危ないからやめさせたい」。どちらも、料理をやめる理由になりやすいものです。でも、原因が分かれば、やめる以外の手があります。
なぜ、料理は続けたほうがいいのか
料理は、ただの家事ではありません。
- 台所の中を歩いて、冷蔵庫と調理台を行き来する
- 野菜を立ったまま切る、鍋を持ち上げる
- 手先で皮をむく、味見をする
- 何から作るか、段取りを考える。火を見張る
体と頭を、一度にたくさん使う作業です。理学療法士の目で見ると、生活の中にある、いちばん中身の濃い運動と言ってもいいくらいです。
だから、料理をやめると、家の中で動く量がぐっと減ります。台所に立たなくなる、立たないから立つ力が落ちる、落ちるからますます台所に立てなくなる。この順番に入ると、戻すのが大変です。
目指すのは、全部を元通りにやることではなく、やれる形で続けることです。
工夫①|座る作業と、立つ作業を分ける
一番効くのがこれです。料理の作業を、座ってできるものと、立たないとできないものに分けます。
| 座ってやる | 立ってやる(短く) |
|---|---|
| 野菜を切る・皮をむく | 火にかける、炒める |
| 下味をつける・混ぜる | 鍋の様子を見る |
| 盛り付け | 洗い物(量が多いときは座ってもよい) |
下ごしらえは、料理の時間の多くを占めます。ここを座ってやるだけで、立っている時間がぐっと短くなります。火の前に立つのは、炒める数分だけ。
私も訪問先で、台所に椅子を1つ置いて、座って下ごしらえをすることを提案してきました。「座って料理するなんて」と最初は言われますが、やってみると「これなら毎日できる」という方が多いです。
椅子の選び方
台所の調理台は、床から80〜90cm台の高さのものが多く、ふつうの食卓の椅子では低すぎて、腕を上げたまま作業することになります。
- 調理台で肘を軽く曲げて作業できる高さの椅子(キッチン用の少し高い椅子)
- 背もたれがあるもの(疲れたときに寄りかかれる)
- キャスター(車輪)がないもの。座るとき・立つときに椅子が動くと、転ぶ原因になります
- 高い椅子で足が床につかないなら、足を乗せる台を置く
キッチン用の高さを変えられる椅子は、通販でも数千円から買えます(Amazonで高さを変えられるキッチンチェアを探す)。買う前に、調理台の高さと、座る人の膝の高さを測っておくと失敗しません。
工夫②|転ばない通り道をつくる
台所で転ぶのは、向きを変えるときと、物を持って歩くときです。
コンロ、シンク、冷蔵庫。この3つの間を、料理のたびに何度も行き来します。その途中で振り向いたり、鍋を持ったまま歩いたりする。ここでふらつきます。
見直すのは、この3つです。
- 3つの間の床に、物を置かない。米袋、ゴミ袋、段ボール、ペットボトルの箱。長く住んだ家ほど、台所の床に物が増えています
- キッチンマットの端に気をつける。めくれたマットの端は、つまずきの原因になります。滑り止めを敷くか、思い切って外す
- 重い物を持って歩かない。鍋に水を入れてからコンロに運ぶのではなく、コンロに鍋を置いてから水を注ぐ。電気ケトルで少しずつ、でもいい
もう1つ、台所には調理台の縁という、つかまる場所があります。調理台に沿って歩けば、手を添えながら移動できる。逆に、調理台から離れる「台所の真ん中」を横切るときが危ない。冷蔵庫の位置が調理台から離れている家は、そこが一番の転びどころです。
転びやすい家の全体の特徴は「転倒しやすい家の特徴5つ」にまとめています。
工夫③|よく使う物を、腰から肩の高さに
台所には、かがむ動きと、背伸びする動きが多くあります。
- 下の収納から鍋を出す(深くかがむ)
- 吊り戸棚から調味料を取る(背伸びする)
どちらも、ふらつきやすい姿勢です。そこで、毎日使う物だけ、腰から肩の高さの場所に移します。
| 動かすもの | 移す先 |
|---|---|
| 毎日使う鍋・フライパン 1〜2個 | コンロの上か、調理台の上 |
| よく使う調味料 | 調理台の手前、トレーにまとめる |
| 毎日の食器 | 食器棚の目の高さの段 |
吊り戸棚の奥や、流しの下の奥は、「めったに使わない物置き場」と割り切ります。全部を使いやすくする必要はありません。毎日使う物だけでいい。
手を使わずに立ち上がれるかどうかは、「親の「まだ大丈夫」を確かめる3つの動作」で見分けられます。手を使わないと立てない方は、かがむ・立つを繰り返す台所の作業が、特に負担になっています。
家族ができること——全部を代わりに作らない
親が台所に立つのがつらそうだと、家族は「もう作らなくていいよ」と言いたくなります。宅配のお弁当を頼んだり、作り置きを持っていったり。
それ自体は助かることです。でも、全部を代わりにやってしまうと、親が台所に立つ理由がなくなります。
おすすめは、一品だけ一緒に作ることです。主菜は宅配やお惣菜にして、味噌汁だけは親が作る。帰省したときは、親に座って野菜を切ってもらい、家族が火の前に立つ。
もう1つの手が、料理キット(ミールキット)です。切ってある野菜や肉と、合わせ調味料がセットで届き、あとは炒める・煮るだけで一品できあがります。訪問先でも、料理キットを頼んでいる方がいます。
一番疲れる下ごしらえが減るので、台所に立つ時間が短くなるのです。それでも、火を使って仕上げるのは本人。「自分で作ったものを食べる」ことは残ります。毎日でなくても、お弁当の宅配と組み合わせて週に何回かだけ、という使い方もできます。
「任せる」でも「取り上げる」でもなく、親がやれる部分を残す。これが、長く台所に立ち続けてもらうコツです。
家族が今日できること
- 台所の調理台の高さを測る。親の膝の高さも測る
- 台所に椅子を1つ置いてみる(キャスターのないもの)
- コンロ・シンク・冷蔵庫の間の床の物をどける。マットの端を確かめる
- 毎日使う鍋・調味料を、腰から肩の高さに移す
- 次の帰省で、一品だけ一緒に作る
- 下ごしらえがつらそうなら、料理キットを週に何回か試してみる
料理と並んで負担の大きい家事が、洗濯です。洗濯を楽にする考え方は「親の洗濯、ドラム式で楽になる?」にまとめました。
この記事のまとめ
- 台所の困りごとは、長く立てないと転ぶの2つ
- 料理は生活の中の運動。やめると動く量が大きく減る。やれる形で続ける
- 工夫①:座る作業と立つ作業を分ける。下ごしらえは座って、火の前だけ短く立つ。椅子は背もたれあり・キャスターなし
- 工夫②:転ばない通り道。床に物を置かない、マットの端、重い物を持って歩かない
- 工夫③:毎日使う物を腰から肩の高さに
- 家族は全部を代わりにやらず、一品だけ一緒に。料理キットで下ごしらえを減らすのも手
体の状態によって、合う工夫は変わります。台所での動作が不安なときは、ケアマネジャーや訪問リハビリの担当者にご相談ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。




