「家の中で、急に足が止まってしまうんです。前に進もうとしても、床に貼りついたみたいに動かなくて」
パーキンソン病の親を持つ家族から、よく聞く言葉です。これは「すくみ足」と呼ばれています。
すくみ足は、いつでもどこでも起きるわけではありません。家の中の、決まった場所で起きやすいという特徴があります。だから、場所さえ分かれば、家の工夫で減らせる部分があります。
この記事では、訪問リハビリの理学療法士(PT)として、止まりやすい場所と、家でできる工夫を順番にまとめました。
この記事の結論
- すくみ足は、歩き出し・方向を変えるとき・狭い所・ドアの前・目的地の手前で起きやすい
- 私が訪問で見てきた範囲では、家具と家具の間の狭い通り道で止まる場面がありました
- 工夫①は、狭い所を広げる。通り道の物を減らし、家具の置き方を変える
- 工夫②は、床に横線の目印を貼る。またぐ線があると、足が出やすくなる
- 工夫③は、手すりと声かけ。止まる場所に手すりを置き、急がせずに「いち、に」と声をかける
- 工夫④は、曲がり方。大きなカーブで、顔を先に向けて、回りやすい方向へ
- 手すりや床材の変更は、介護保険の住宅改修が使える場合がある
- 急に止まりが増えたときは、薬の効き方が変わっていることもある。主治医に伝える
すくみ足とは——足が床に貼りついたように止まる
すくみ足は、歩こうとしているのに、足が前に出なくなる症状です。パーキンソン病で見られることが多い症状の一つです。
本人は「歩きたい」と思っています。でも、足が床に貼りついたように、一歩目が出ません。小刻みに足踏みをしたあと、急に体だけが前に倒れそうになることもあります。転倒につながりやすいのは、このためです。
不思議なことに、広い廊下や階段では、すっと歩けることがあります。階段の段差のように、目で見て「ここに足を置く」と分かるものがあると、足が出やすくなるのです。
この性質が、家の工夫のヒントになります。
止まりやすい場所は、家の中で決まっている
すくみ足が起きやすい場面は、おおよそ決まっています。
| 起きやすい場面 | 家の中の例 |
|---|---|
| 歩き出し | 椅子やベッドから立って、最初の一歩 |
| 方向を変えるとき | 廊下の曲がり角、トイレの中で向きを変えるとき |
| 狭い所 | 家具と家具の間、物が置かれた廊下 |
| ドアや入口 | 部屋の出入り口、トイレや浴室の入口 |
| 目的地の手前 | 椅子やベッドに近づいたところ |
同じ家でも、止まる場所は毎回ほぼ同じです。まずは「どこで止まるか」を家族が見ておくことが、工夫の出発点になります。
現場から——家具の間で足が止まる
私が訪問で見た中で印象に残っているのは、家具と家具の間の狭い通り道で足が止まる場面です。
広い場所では歩けているのに、狭い所に入ろうとした瞬間に、足が前に出なくなる。家族は「そこは毎日通っている道なのに」と驚かれます。でも、すくみ足の人にとって、狭い所は一番止まりやすい場所の一つです。
こうした家で、私は床に目印を貼ることを提案したことがあります。目で見て「ここをまたぐ」と分かるものがあると、足が出るきっかけになるからです。
止まる場所が分かれば、手を打てます。ここからは、家でできる工夫を3つの順番で紹介します。
工夫①|狭い所を広げる——家具の置き方
一番の対策は、止まりやすい狭い所を、そもそもなくすことです。
- 通り道に置いてある物(新聞、かご、段ボールなど)を片付ける
- 家具の間の通り道を、体を横に向けなくても通れる幅にする
- 動かせる家具は、壁側に寄せて通り道をまっすぐにする
- トイレや寝室までの道は、曲がる回数が少ない道を選ぶ
ただし、家具を全部動かす必要はありません。毎日何度も通る道、たとえば寝室からトイレまでの道から見直すのが効果的です。
家具の配置を変えるときは、本人が「どこに何があるか」で混乱しないよう、一度に大きく変えすぎないことも大切です。
工夫②|床に目印を貼る——貼り方の実際
足が止まりやすい場所の床に、横向きの線を貼ります。階段の段差と同じように、「この線をまたぐ」と目で分かると、足が出やすくなります。
貼り方のポイント
| ポイント | 理由 |
|---|---|
| 線は進む方向に対して横向きに貼る | 「またぐ」動きのきっかけになる |
| 間隔は45〜55cmほどを目安に、本人の一歩に合わせる | 広すぎても狭すぎても、足が合わない |
| 線の長さは40〜50cmほどとる | 線が短いと、足と足の横の幅が狭くなり、ふらつきやすい |
| 色は床とはっきり違う色にする | 目で見て分かることが一番大事 |
| 薄くて滑らないものを選ぶ | 目印でつまずいたら、本末転倒 |
| 賃貸ならはがしやすいテープにする | 退去のときに床を傷めない |
間隔と長さは、リハビリの現場でよく使われる目安です。私も以前、パーキンソン病のリハビリについて資料をまとめたとき、この目安を整理しました。実際には、本人が歩いてみて、足が出やすい間隔に調整してください。
貼る場所は、先ほどの「止まりやすい場所」です。家具の間の通り道、部屋の入口、トイレの前など、止まる場所にだけ貼ります。家じゅうに貼る必要はありません。
平らな線では足が出にくい人には、低い段差のような立体的な目印のほうが効くこともあります。ただし、つまずく心配もあるので、理学療法士などと一緒に試してください。
工夫③|手すりと声かけ
手すりは「止まる場所」に
足が止まったとき、つかまる所があると、転倒を防げます。止まりやすい場所の近くに手すりがあると安心です。
- 部屋の入口やトイレの入口の横
- 廊下の曲がり角
- ベッドや椅子から立ち上がる場所
工事をしない置くタイプの手すりもあります。まずは置くタイプで試して、効果がある場所だけ工事を考える、という順番もできます。
声かけは「急がせない」
足が止まったとき、家族はつい「早く」「ほら、足を出して」と言いたくなります。でも、急がせると余計に止まりやすくなります。
- 「いち、に、いち、に」とリズムよく声をかける
- 一度止まって、立ち直してから一歩目を出す
- 最初に出す足を決めておく。「止まったら右足から」と決めておくと、迷わずに出やすい
- 歩いている最中に話しかけない。考えごとが重なると、足が止まりやすくなる
- 後ろから押さない。体だけが前に出て、転倒につながる
声のリズムも、目印と同じで、足が出るきっかけになります。
すくみ足のある人は、「また止まったらどうしよう」という不安を抱えやすいと言われています。止まったときにどうするか(立ち止まる、足を決めて出す、声をかけてもらう)を本人と家族で決めておくと、安心して歩けるようになるでしょう。
工夫④|方向を変えるときのコツ
すくみ足は、向きを変えるときにも起きやすくなります。廊下の曲がり角や、トイレの中で振り向く場面です。
- 急に曲がらず、大きなカーブで曲がる
- 本人が回りやすい方向で回る(左右で回りやすさが違うことがある)
- その場で向きを変えるときは、足を高く上げて足踏みしながら少しずつ向きを変える
- 顔(頭)を先に、行きたい方向へ向ける
- 曲がり角に縦の手すりや、床の線を置く
- 曲がり角に椅子を置いて、止まったときにいつでも座れるようにする
家の中の「曲がる場所」を少なくする工夫①と組み合わせると、止まる回数を減らしやすくなります。
介護保険の住宅改修が使える場合がある
手すりの取り付けや床材の変更は、介護保険の住宅改修の対象になる場合があります。要支援・要介護の認定を受けていれば、工事費20万円までを上限に、費用の多くを介護保険でまかなえます。
| 住宅改修の主な対象 | すくみ足との関係 |
|---|---|
| 手すりの取り付け | 止まる場所でつかまれる |
| 段差の解消 | 小刻み歩きでのつまずきを防ぐ |
| 滑りにくい床材への変更 | 足踏みしたときの転倒を防ぐ |
| 引き戸などへの扉の取り替え | ドアの前で止まる時間を減らす |
使い方や注意点は「介護保険の住宅改修費20万円、損しない使い方」にまとめています。工事の前に、まずケアマネジャーに相談してください。
急に止まりが増えたら、主治医に伝える
家の工夫は大切ですが、すくみ足の強さは、薬の効き方でも変わります。
パーキンソン病の薬は、飲んでから時間がたつと効き目が弱まることがあります。そのため、1日の中で、歩ける時間と止まりやすい時間がある人もいるのです。
- 前より止まる回数が増えた
- 薬を飲む前の時間に、特に止まりやすい
- 転びそうになる場面が増えた
こうした変化に気づいたら、いつ、どこで、どのくらい止まるかをメモして、主治医に伝えてください。家族が見ている情報は、薬の調整の大事な手がかりになります。
よくある質問
すくみ足は、どんな場所で起きやすいですか?
歩き出し、方向を変えるとき、狭い所、ドアや入口、目的地の手前で起きやすい症状です。同じ家でも、止まる場所は毎回ほぼ同じです。まずは家族が「どこで止まるか」を見ておきましょう。
床の目印は、どれくらいの間隔で貼ればいいですか?
間隔は45〜55cmほど、線の長さは40〜50cmほどが目安です。リハビリの現場でよく使われる目安なので、実際には本人が歩いてみて、足が出やすい間隔に調整してください。
目印のテープは、何を選べばいいですか?
床とはっきり違う色で、薄くて滑らないものを選びます。目印でつまずいたら本末転倒だからです。賃貸なら、退去のときに床を傷めないよう、はがしやすいテープにしましょう。
足が止まったとき、家族はどう声をかければいいですか?
急がせると、余計に止まりやすくなります。「いち、に、いち、に」とリズムよく声をかけ、後ろから押さないようにしてください。「止まったら右足から」のように最初に出す足を決めておくと、迷わずに出やすくなります。
手すりや床の工事に、介護保険は使えますか?
手すりの取り付けや床材の変更は、介護保険の住宅改修の対象になる場合があります。工事の前に、まずケアマネジャーに相談してください。内容や手続きは市区町村・年度で異なるので、窓口でも確認しましょう。
この記事のまとめ
- すくみ足は、歩き出し・方向転換・狭い所・ドアの前・目的地の手前で起きやすい
- 止まる場所は家の中で決まっている。まず家族が「どこで止まるか」を見る
- 工夫①:狭い所を広げる。毎日通る道から見直す
- 工夫②:床に横線の目印。一歩の幅で、床と違う色、薄くて滑らないもの
- 工夫③:止まる場所に手すり、声かけは急がせずリズムよく
- 工夫④:曲がるときは大きなカーブで、顔を先に。曲がり角に椅子も
- 手すりや床材の変更は、介護保険の住宅改修が使える場合がある
- 止まりが急に増えたら、メモをとって主治医へ
転びにくい家の全体の考え方は「転倒しやすい家の特徴5つ」に、体の片側が動きにくい場合の手すりの付け方は「片麻痺の親の家——手すりは「行きと帰り」で反対になる」にまとめています。
症状の出方は、一人ひとり違います。家の工夫を始める前に、主治医やケアマネジャー、担当の理学療法士・作業療法士にご相談ください。介護保険の住宅改修の内容や手続きは、市区町村・年度で異なります。窓口でご確認ください。
親の家をどうするかの全体像は「「親の家、どうする?」完全ガイド」にまとめています。
介護リフォーム




